夜の墓参り2

新潟に戻って来た。

空港からバスに乗り、駅までの通り沿い。

並んだお店を見ると、見慣れない新しいお店があったり、こんなお店があったんだと、新鮮な気持ちで街を見た。

この春リニューアルした新潟駅前はすっかり変わって、みんな新しい駅にも慣れてしまったようだった。

対馬での暮らしは、まずはシンプルな自然がある。

街に行くといつも通い慣れたスーパーや、ホームセンターなど。

いつもが、変わらない営みだった。

なんだか浦島太郎になったような気がした。

昭和の雰囲気の対馬から帰ったら、令和6年になっていた。みたいな気分だ。

 

話を前回のお墓参りに戻しますと。

同行していた人に先に行ってもらい。

僕はライトを付けずに、足元がよく見えないので、よちよち歩きみたいな速度で進んだ。

石や木の根があり、足で探りながら進んで行く。

僕は一人になりたかった。

灯りがうんと遠くに行くと暗闇に包まれる。

ふと周りを見ると、蛍が飛んでいたり、森の中にポツポツ光が見えた。

よく見ると一筋並んで光っていたりする。

キノコが光っているようだ。

蛍より小さな光で、か弱い光を放っている。

その日は日中濃い霧に包まれていた。前日は大雨だったので菌類の動きも活発なんだろう。

一筋に並んでいるのは、倒木にキノコが並んで生えているからだとわかった。

偉人のお墓に失礼にも夜に入り、こんなに感動的な景色が見られて幸せで、何も怖くはなく、静かな暖かい森の空気に包まれて、むしろ心地良かった。

しばらくするとどっちだろうと、茂みの中で彼が待っていた。

こっちでしょうとお知らせして、また先に行ってもらった。

木の葉のトンネルの中は、流石に真っ暗で何も見えないので、所々ヘッドランプを付けた。

少し行くとまた彼が止まっていて、鳥居があって、そのさきに屋代があった。

もうここで終わりでしょう、と彼が言ったが、僕は昼間の偉人のお墓を写真で見た事があったので、いやまだ先に道があります、と言って道を探した。

屋代の横に細い道を見つけ、今度は僕が先に行った。

彼は僕の先を照らしてくれて、ライトが邪魔だったら言って下さい。消しますからと言ってくれた。

ちょっと進むと大木があった。ライトを消してもらった。

わずかに幹が光っている。

菌類か、苔か、立ち枯れした幹が、発光しているようだ。

そこでこの場所は明治時代まで、人が入ってはいけない場所だったと、彼にお話しさせて頂き。

興味本位で行くところではないと、失礼ながら説明をした。

さらに道は険しく、石も大きくて進みにくくなって、見ると立て札があり、ここから先は土足厳禁と書いてあった。

彼に先にお参りさせてもらいますと断って、僕は靴と靴下を脱いで歩いた。

しっとり濡れた木の葉の感触が、なんとも気持ちよかった。

 

暫くして偉人のお墓が現れた。

お墓を照らさないようにヘッドランプを付けて、地面を照らした。

宿の主人が用意してくれた、お神酒と塩をお墓にお供えをして、お墓の前に両膝を付いてお祈りをした。

自然に感情が込み上げてきた。

何かのご縁で対馬まで来たこと、こんな機会が得られてとてもありがたくて、感謝の気持ちでいっぱいになり、いつまでもこの美しい島の自然が守られますように、とお祈りをした。

それと、皆さんを感動させる作品が作れますようにと、私事をお祈りした。

 

引き返すとその人も待っていてくれた。

お礼を言って、あなたもどうぞ、と言ったがその人は遠慮して、帰り道に向かった。

 

帰りながらも、時々振り返り、偉人に御礼を言って頭を下げた。

空の上は晴れていた。