ツバメの棲む街

今回の新潟滞在中に、栃尾という所に行って来ました。
パートナーの言う事には、なんでも大きな油揚げが有名なのだそうなのです。司馬遼太郎の小説「峠」にも出てきた地名で、古い町並みが残っているのではないかと期待して、出掛けてみました。

行ってみると予想通り雁木の連なる、山間の古い町でした。
丁度ツバメのヒナが大きくなっていて、親鳥が頻繁に巣に餌を運んでいる所でした。
巣は雁木の軒下にあるのですが、手を伸ばしてジャンプすれば届くんじゃないか?と思われる程の高さに巣があったりします。
人に対する恐怖心が無いのか、地域の人がツバメを暖かく見守っている証しだろうと思われます。

途中地元のおじいさんに聞いた話だと、ツバメがかわいくてしょうがないらしく、毎年来るのが楽しみだと言ってました。
見ると車庫の中に2つも3つも巣がありました。
人間を頼りに毎年春になると自分の家の軒下に帰って来るのです、それはかわいい事でしょう。
それぞれの家でツバメが巣を作り易いように板を添えたり、しているようです。

ある豆腐屋に行くとお昼前にも関わらず、今日の注文は終わりましたと立て札が掛けてあります、余程人気のお店なのでしょうか。
そのお店の車庫に何度と無くツバメが出入りしているので観察すると、幾つも巣が壊された跡があり、新たに二匹のツバメが入れ替わり土を運んで来てまた巣を作ろうとしているんです。
ツバメの巣の下にはヒナの糞がたくさんあって汚く見えるので、商売の邪魔になるとの考えでしょうか




その隣で頑固そうな親父さんが油揚げを揚げています。こんな事もあるのです。
巣が完成したらまた壊されてしまうのでしょうか、ツバメの苦労を思うと切なくなります。

去年訪れた上越の高田と、この栃尾、また素敵な所を新潟に見つけたので、再び訪れようと思います。
そういえば東京でツバメを見る事はありませんね。
物が豊かになる事、と心が豊かな事、は必ずしも比例するわけでは無いのでしょう。


新潟からの帰り道、越後川口辺りの国道を走っていると、カラスが何かをくわえて悠々と飛んで行き、その周りをたくさんの小鳥が騒ぎながら追いかけて行きます。良く見るとツバメでした。
きっと巣を襲われて大切な子供を連れて行かれたのでしょう、5、6羽の親鳥がカラスの周りでけたたましく鳴きながら追いかけるのですが、カラスは慌てた様子も無く飛んで行きました。

それでツバメが人の居る所に巣を作る理由がわかりました。
ツバメは人間に外的からの暮らしの安全を確保してもらい、代わりにかわいらしい自分の子供の姿を街の人に見せているのでしょうか。
頭の半分程大きく口を開け、餌を呉れと懸命に泣き叫ぶヒナの、かわいらしい姿が、心に残りました。