父は長男だった為、自分の親が体を悪くしたのをきっかけに、東京の仕事を辞めて、実家の岡崎に帰り、靴の組立ての仕事をして暮らしてきた。
本当は東京で活躍する夢を諦めての帰郷だったそうだ。
その後、母と結婚して、二人の男子が生まれて、次男には自分の望んだ事をやらせようと思い、「達己」という名前を付けたらしい。
読み方は「たつみ」で、宛名書きで「たつみ」と打っても、達己という漢字は出てこない。
己の字は自己のこで、普通は「こ」と読み、当て字で、「己を達する」という意味があるらしい。
この「達己」という名前の人があまり居ない。
今までに一人だけ遭った事がある。
20代の頃、東京でウエイターのアルバイトをしていた時の事で、苗字は堀江さんだった。
お互いに珍しいねと言いながら「頑固な名前だよね」なんてその人がいうので、その時はそんなもんかと思ったが、その頑固というのが頭から離れないで残っている。
その後同じ名前を見た事が無い。
昨日妻がアウトドアショップに行くというので、付いて行った。
妻は何も買わなかったが、僕は厚手の靴下が欲しくて、山用の暖かそうな靴下を買ってレジに行くと、メンバーズカードを要求された。
持ってなかったので、忘れたというと、名前を告げたらポイントを付けてくれるというので、名前を告げた。
なかなか検索に手間取っていたので、確か10年程前に新宿店で作ってもらった事を話すと、その店員さんは前に新宿に勤めていたらしく、気さくに話しかけてくれた。
その後もちょっと間を置いて、「あれ」と一瞬、間があった後で「中央区の山口さんですよね。」とカードを探してくれた。
会計を済ませてから、実はもう一人同姓同名で生年月日が同じ山口さんが世田谷区に住んで居ると教えてくれて、僕も目を丸くして驚いた。
車に戻り妻に話すと、年も同じなのかと妻が聞くので僕も気になり、またお店の人に聞いてみたが、店の人も個人情報だとそれ以上教えてくれなかった。
山口達己という同姓同名の人間が居た驚き。
しかも同じ日に生まれたとしたら、凄まじい偶然だと、感動した瞬間だった。