うねり

先々週の土曜日に課長がやって来て、僕とエアブローを交代した。

その時に、エアブローをするコツを少し伺った。

僕はプラスチックに電気を注入するんだと思って手を動かしていたが、そうではなく風でホコリを吹き飛ばすという事だった。それとどう動かせばば効果的か教えてくれた。

それ以来ぼくも試行錯誤を重ねて、だんだん不良の数が減っていった。

チームのリーダーにもある程度認められてきたような気もするが、相変わらずスピードは遅かった。

僕なりに開き直って少し遅くても良いから丁寧にエアブローをするよう心掛けた。

 

今週は水曜日にリーダーが休みで、他のメンバーでがんばろうという事で、僕も気合いが入り、朝から飛ばして頑張ったが、スピードは上がらず後半はバテテしまい

少し反省した。

木曜日はどうすれば早くなるか考えつつも、平常心を心掛けた。

そうしたらその日のノルマを達成したようで、いつもより少し早く帰る事が出来てた。

僕も他のメンバーも久し振りに笑顔だった。

ところが金曜日になると、不良が大量に出始めた。

休憩時間にモニターを見るとたくさん不良が出ているので、エアブローがちょっと雑だったかなと思い、その後丁寧にやったが、一向に不良が減らないしスピードも落ちるし、みんなエアブローのせいだと思ってるだろうと思うとやりきれなくて、リーダーは課長に説教されるし、僕は落ち込んでその日はため息をついて、酒をのんで寝た。

 

土曜日、少し早く来て同じラインの夜勤の人達の成果を見ると、夜勤の人達も大量に不良が出ていた。

それを見て少し救われる思いがした。

僕だけの問題ではなくて、何か他に原因があるかもしれなかった。

結局土曜日は大量の不良が出続けた。

乾燥しているので静電気が起こりやすいのかと、床に水を撒いたり、エアコンを止めても成果が無かった。

エアブローをしながら、頑張っても頑張って手がちぎれるくらい腕を振っても、それを見ている神様に嘲笑れているような妄想をした。

みんな頑張って沢山の出来損ないを造っているのが悲しくも、おかしかった。

 

 

それとは別に、不思議な感覚があった、この工場に来た当所から以前来た事があると感じていた。

昔山歩きをして、山から下りて来たら工場に出てしまい、その工場はシンナー臭くて、

出口には守衛さんが居て色々聞かれると面倒なので、仕方なく別の場所から工場を抜けて一般道路に出たというおぼろげな記憶があった。

それがこの工場のような気がするが、なんとも記憶が曖昧だった。

地図を見ても周辺を歩いた覚えが無かった。

今週天気のいい日に昼食を食べ終えて、少し工場の敷地を歩いてみると、この柵を乗り越えて階段を下りて下の道まで出た記憶が蘇った。

その時は間違いなくこの工場だと直感した。

 

今日工場の裏山を散歩する事にした、確証を得る為に。

行ってみると、以前来た事があるような気がしたが、どこか他の場所で見た景色とシンクロしているようで、何ともよくわからなかった。

山は「あいち森と緑づくり森林整備事業」とかいう杭が打ち込まれ、最近整備されたようで、新しいベンチが造られていたり以前とは景色も変わっているようだった。

工場のすぐ裏迄行ってみたが、ここを通ったという記憶に残る物は見当たらなかった。

 

山の尾根から見える麓の工場は灰色で、4時のチャイムが聞こえて来た。

明日からは昼から夜の勤務に変わり、また嵐のような一週間が始まる。

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